(続)海の音

雑念のメモ

大森靖子の出張実験室in幼稚園~一緒にあそぼう親子イベント~(2017.11.19)

池袋から西武線に乗って最寄駅の改札を出て、会場の幼稚園はどこかなと地図を見ようとしたらちょうど改札の前にいた友人と娘さんに遭遇。迷う心配がなくなり安心した。一緒に地図を見て駅を出ってこっちかなぁと歩いているとナナちゃんパーカーを着たお子さん連れの男性を発見、友人が声をかけてみんなでぞろぞろと歩いて向かった。駅前の立ち食いうどん屋さんからほわーと湯気が出ていてこのお店絶対美味しいなと思った。

すぐに幼稚園の看板が見えてきた。園庭に入ると子ども達が自由に遊んだり歩き回っており、これから穏やかで楽しい時間になることが想像できた。幼稚園は思っていたより小さくて歴史がある感じで、だからこそ自分が何十年も前に実際幼稚園に通っていた頃の思い出や懐かしさがどっと込み上げてきた。建物の中は日曜日で園児や先生がいないためか、暗くて冷んやりしていた。入口で前記入制(子どもが横にいて書き物はできないので素晴らしい配慮)のアンケート用紙を渡してお金を払った後、靴を脱いで上がる。会場は建物の最上階だったのでいくつも階段を登らなければならなかった。子どもにとっては少し大変だったかもしれないが途中何度も「この上が会場です」「あとちょっと!」等という大森さんの文字やナナちゃんが直筆でかかれたピンクの紙が貼ってあって、子どもというより私が励まされた。サイも「あ、ナナちゃんいた!」と張り紙を見る度に喜んでいた。サイは階段の途中に掲示されている園児達が作ったらしいキツネの折り紙作品を見ても「おーもりさんがつくったのかなぁ」と感心していた。

最上階まで登るとぱっと明るくなり、なんだか天国に辿り着いたみたいだった。会場には、園児用の木製机がきれいに並んでおり、机には四脚ずつこれも園児用の椅子が置いてあった。前方に舞台があった。普段は入園式やお遊戯会が行われてる部屋らしかった。ナナちゃんやまほうさちゃんの絵、ピンク色の風船が壁やピアノなど至るところに貼られていて、部屋全体が可愛く飾り付けられていた。大森さんの曲がかかっていた。天国にようこそ、と聞こえた(気がした)。舞台手前にはピンク色の布がかけられた演台があり、真ん中にナナちゃんが座っていて左右に水とりんごジュースが置かれていた。ナナちゃんは全てを悟ったような澄んだ表情をしており、天国の番人(?)のようだった。「よくきたね」と言われた(気がした)。

前の机が空いていたのでそこにサイと隣同士で座ったがサイは知らない場所と人達に緊張して落ち着かないようだった。美マネさんが「外におやつや飲み物がありますのでご自由にどうぞ」とアナウンスしてくれたのでサイと廊下に出た。ジュースもあればお茶もあり、お菓子も小さい子どものツボをつくものばかりで隅々まで大森さんの心遣いが感じられた。サイは嬉しそうに演台にあったのと同じ幼児用りんごジュースとメロンパンナちゃんのお菓子を選び(こういう時の判断が意外に冷静)、また席に戻った。いただいたお菓子とジュースを早速食べ始めたら緊張がほぐれてきたようでお向かいに座ったお子さんとも少しずつ交流し始めた。始まる前にトイレでオムツを替えていると大森さんの声がしたので慌てて戻った。今回の実験室は開場から始まるまで15分間しかない。普段の実験室では1時間あるが、子どもは30分も待っていられないから15分くらいがちょうどいい。細かな所までよく配慮されている。

大森さんと二宮さんが登場され、大森さんが挨拶をされた後、ラジオ体操をした。大森さんが舞台に上がられると何人かの子ども達もわっと上がろうとし大森さんは笑顔で手招きした。大森さんと子ども達が横並びになる形でラジオ体操が始まった。サイはやっぱりまだ緊張していたのかラジオ体操の曲がかかり他の人達が立って体操し始めても座ったまま難しい顔をしていた。サイに話しかけていたらラジオ体操は終わってしまった。

続いてトーク。ナナちゃんのいる演台に大森さんと二宮さんがいつもの実験室トークの時のように着席された。「騒いでも何しててもいいですから」と大森さんが冒頭で言われたとおり、子ども達はうろうろしたり舞台に上がったり叫んだり自由そのものだった。通常であれば親はこういう時、周囲への申し訳なさでいっぱいになるが、ここではそれが当たり前なので誰も気にしていなかった。大森さんと二宮さんも特に気にせずアンケート用紙を読み上げていった。アンケートのお題どおり、子育てや大森さんのお子さんの話が中心で興味深い話が多かったがサイのことが気になってあまり集中して聞くことができなかった。好きな人が目の前で話をしているのにちゃんと聞いていないなんて何かすごく贅沢な状況だなと思った。

大森さんはトーク中、子ども達を意識されたのか「アンパンマン」や「カレーパンチ」など子どもが気になりそうな単語を少し大きめの声でゆっくり発音されていた。それがサイにはすごく効果的だったようで、キーワードが聞こえる度に「おーもりさん、あんぱんまんっていったね」とにやにやしていた。大人でも全然分からない話をしている人より、自分が関心ある事の話をしている人の方が身近な存在に思える。しかも子どもにとって大人の話はたいてい面白くない。単語を知っていても文脈が分からなかったりする。でもその中で好きな言葉が出て来たら嬉しい。大森さんのMCやラジオが魅力的なのは言わずもがなだが、子ども達さえも惹きつけるのだなぁとただ感心するばかりだった。いつかの実験室で話されていたツイート禁止のエピソードをここでも話されていたが、普段子どもがいて実験室に来られない人を想定してのことだろうと思った。

30分程話されたところで未読のアンケート用紙が大森さんの手元にまだたくさん残っていたが、子ども達の様子を見てこれ以上続けない方がよいと判断されたのか「トークは終わりにして次の工程に移りましょう、工作をしまーす」と明るく言われた。それでも大森さんは残ったアンケートを熱心に読んでいた。前々から思っていたが、私は大森さんが下を向いてアンケートを読んでいる姿が本当に好きだ。ものすごく集中して真剣に書いてあることを読み取ろうとしてくれているのが分かり、その表情がとても美しくて好きだ。

合間合間で大森さんの子ども達に対する「一緒に楽しもう」という姿勢が全面に出ていた。子ども達に話しかけたり、触れたり、「わー」と低い声を出して追いかけたり、距離がとても近かった。サイもそうだが子どもは追いかけられて「きゃー」と言って逃げるのが異様に好きだ。そして自分に興味を持って遊んでくれる大人に心を許す。

スタッフのお姉さんが前に出てナナちゃんお面の作り方を説明してくれ、美マネさんや他のスタッフさんが席をまわりお面の用紙と飾り付用シール、鋏、ホッチキスなどの道具が入ったカゴを配ってくれた。サイは鋏を使うのが大好きなので見つけると目を爛々と輝かせていた。シールにも食いついていた。工作が始まると大森さんは各机をまわられて後ろの方の子ども達とも交流していた。子ども達は好きなシールで飾り付けたナナちゃんお面が完成するとそれを被って舞台に上がりカーテンに隠れたり走り回ったりしてはしゃいでいた。サイは走り回る子らを羨ましそうに眺めるだけでずっともじもじして座っていたが、彼の中で何かが舞い降りたのか、突然立ち上がり舞台に走っていきその輪に自ら入って行った。そしてその後は家にいる時と変わらぬ姿ではしゃぎ、私の元にはなかなか戻って来なかった。なので、お面を黙々と作りながら、やはり同じようにお子さんが離席した前の方と少しお話できた。その間、スタッフさんはずっと机をまわって出たゴミを集めて下さっていて本当に助かった。

お面が大体完成したところで、大森さんが「集合写真を撮りたいと思いますー」と声をかけ、大人も子どもも舞台に上がった。誰が指示したわけでもないのに、ナナちゃんお面をつけた子ども達はわーっと大森さんがいる最前列に集まった。大森さんが今や子ども達の信頼を得てものすごく好かれているのがよく分かった。サイも大森さんの側に行き、満面の笑みで自分が作ったお面を見せていた。私はその子どもらしい距離感にどぎまぎして遠くから眺めていた。
集合写真が終わり、大森さんはいつもの実験室のように一旦退場された。子ども達は相変わらず舞台上ではしゃいでいた。演奏が始まる前、美マネさんがギターを持って出て来られたが、興奮して走りまわる子ども達を見て舞台に置くのを辞めた。その判断がさすがだなと思った。子どもはとにかく興味がある物は何でも触って確認しようとするので、もし置いていたら美しいハミングバードは破壊されていたかもしれない。
しかしよくよく考えると、開始前からずっと演台にいたナナちゃんに乱暴する子は一人もおらず、子どもの中に触れてよいものとダメなものの線引きがあるとしたらすごいなと思った。愛おしそうに撫でたり、恥ずかしそうに一瞬触れて退散したり、代わる代わる持っているお菓子をナナちゃんの口に運んで献上したり、彼らはナナちゃんを敬っていた。それは可愛いからという一点に尽きるのかもしれないが、誰も独占したり持ち逃げしたりしなかったのはナナちゃんにただ者ならぬオーラというか威厳があったからかもしれない。

まもなくして大森さんが登場され、前方右側に置かれたピアノにさっと近づき「アンパンマンのマーチ」と「アンパンマンたいそう」を弾かれた。子ども達は大喜びでペンライトを振ったり体を揺らしていた。よく知ってるアンパンマンの曲なのに大森さんが弾くと大森さんの色がはっきり出ていてとてもよかった。子ども達が盛り上がった所で大森さんはピアノから離れ、今度はギターで弾き語りを始めた。マイクなしの完全生歌生演奏。最初に「ミッドナイト清純異性交遊」を歌われた。子ども達は大人と一緒に手に持っていたペンライトを自由に振ったり手を叩いていた。それから「あたし天使の堪忍袋」を歌われた。意外だったが、生音になるとものすごく優しくて温かくて、うまく言えないけど抱きしめられてるみたいだった。続いて「コーヒータイム」。アンケートの「推し曲」欄に今聴きたい曲としてこの曲を書いたので、大森さんが歌い始めた時あまりにも嬉しくて胸いっぱいだった。続いて「流星ヘブン」。好きな曲なのにサイが話しかけてきたため、集中して聴けなかった。でも素晴らしかった。そして「絶対彼女」。大森さんは前に座っていた小さな男の子に「一人だと緊張するかな」と気にかけつつ、いつもファンに歌わせてくれるソロパートを振った。男の子は舌足らずな声で一生懸命最後まで歌い切り、その様子がとても愛おしかった。歌い終えると大森さんは女神のように微笑んで弾いていたピックを渡し、男の子は受け取っていいものなのか驚いた顔をしていた。大森さんが弾いてごらんとギターを差し出すと、男の子が弦を少し弾いた。ぽろんと音が鳴った。その光景がとても美しかった。

何の曲だったか失念してしまったが、大森さんは途中から部屋をまわって目があった子どもと一対一で向き合ってギターを弾かれた。目の前で音を聞いた子ども達はみんな驚いたような嬉しいような面白い表情をしていた。それでも泣き出す子は一人もいなかった。この子達が初めて花や星を見た時もこんな顔をしていたのかなと思った。サイは目を合わすタイミングを失って他の子に爆レスする大森さんを羨ましげに見つめていたが大森さんはそれにちゃんと気付いて今度はサイに向けて弾いてくれた。私は大森さんの優しさに泣きそうになって、でもサイがいるから泣いてはいけないと思って直視できなかった。

最後に何を歌おうかなと言われて、普段なかなか来れない方もいるだろうから同じ曲を二度やるのはどうかなと迷いつつも、子ども達が一番盛り上がっていたということで「ミッドナイト清純異性交遊」をもう一度歌われた。最初より更に盛り上がって大人も子どももペンライトを振ったりケチャをした。あぁ音楽っていいなと思った。子ども達は大森さんが歌っている途中、突然離席し歩き回る、声をあげる、独自のリズムで揺れる等完全に自由だった。バラバラだったがそれぞれが音を楽しんでいて、音楽とは本来こうあるべきなのではないかと気付かされた。音楽鑑賞の本髄がそこにあった。

最後にチェキ会。つい自宅にいる時のようにリラックスしてしまっていたが、列に並んでいると「大森靖子さんのイベントに来ている」という実感が唐突に沸き、今更ながら緊張した。それくらい夢の中の出来事のようだった。いつもよりゆったりとした撮影会だった。大森さんと接する時間がかなり長くてまごついてしまった。サイは余程嬉しかったのか、撮ったチェキを知らない人に見せてまわっていた。チェキ会が終わりお開きとなる頃、お面を被ったジョニー大蔵大臣さんが控えめに登場されてご挨拶された。温泉に浸かった時のような安堵がどっと押し寄せた。

帰り支度をして会場を出ると、廊下で大森さんはジョニーさんと並んで最後の最後まで子ども達を見送ってくださった。来た時と同じように階段を下って外に出ると、少し日が暮れ始めていて空気がつんと冷たかった。一緒に出た人達とゆっくりと歩いて駅まで向かった。子ども達は動画を観たり、疲れて眠ったり皆大人しかった。サイは知り合いのファンの方にいただいた苺のフルーツサンドを夢中で食べていた。騒ぐ子どもがいないとやけに静かになり、みな今日の日を噛みしめながら歩いているようだった。駅前のうどん屋さんはやはり美味しそうだった。湯気が夕陽に照らされてゆらゆらしていた。また電車に乗って池袋まで行き、池袋でそれぞれの方向に解散して帰宅した。

フルーツサンドを一瞬で平らげた後サイは深く眠ってしまったので最寄駅に着くと喫茶店に入り珈琲を飲みながら今日撮ったチェキをしげしげ眺めた。チェキ以外はまともな写真をほとんど撮れなかったが、大森さんが曲と曲の間にりんごジュースを飲んでた姿がめちゃくちゃ可愛かったな、などと目に焼き付けた数々の愛おしい場面を回想していた。自分の中でしか残らないけど、目に焼き付けるってことも大事かもしれない。

夜、サイは特によかったも楽しかったも言わなかったのでどうだったかなと思っていると、壊れて放置されていた玩具のギターをどこからか引きずり出してきてすぐ修理してほしいと言った。

大森さんはいつかのラジオで「子ども限定ライブをやりたい」とおっしゃり、それはいつか見た夢だった。子どもがいるファンの方とも実現したら素晴らしいだろうねと何度も話した。子どもがいると普段ライブにはなかなか行けない。自分が選んだ道だから不幸という訳ではないが一つの境遇により好きなものが制限されるのは何だか悲しい。かといって本来誰にでも平等に開かれているはずのライブに「子どもと親」という特殊な制限を設けるのは、子どもがいない方の立場で考えると不公平で納得できない気もする。などと勝手に悶々としていた。私は考えるだけ考えて何も行動に移せないことが多い。大森靖子さんは有言実行の人だ。やると言ったらやる。なかったことにしない。夢をいつか見た夢で終わらせず、一つずつ手作りする。それは簡単なようでとても難しい。
小さな子ども達は今日のことをいつか忘れてしまうかもしれないが、目の前で聴いたギターの音や大森さんと過ごした楽しさが感覚として彼らの記憶のどこかにほわっと残っていたらいいなと思った。大森靖子さん、二宮さん、美マネさん、スタッフさん、そして並木幼稚園さんのおかげで貴重な体験をすることができた。心より感謝申し上げたい。